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実録・産業史19)マレリ、いや日ラヂ、関東精器がんばれ 自動車部品メーカーの消滅が始まるのか

 自動車部品大手のマレリホールディングが経済再建を目指して主要取引先の日産自動車や主力銀行に支援を求めていることが明らかになりました。私的整理の一つである「裁判外紛争解決手続き(事業再生ADR)の手法を活用するそうです。負債は1兆円程度というそうですから、企業規模からみてもかなり過大です。コロナ禍に伴う受注減が原因と説明しているそうですが、100年に一度の変革期を迎えた自動車産業の凋落がそのままあぶり出る”事件”です。

 マレリは個人的には日本ラヂヱーター、関東精器という社名の方がしっくりきます。いずれもかつては日産系列の大手自動車部品メーカーでした。とりわけ日本ラヂヱーターは「ニチラジ」と呼ばれ、埼玉県の本社に足繁く通いました。自動車の主要部品を開発、生産しているので、取材を重ねると日産のみなら世界の自動車メーカーを何を考え、どういうクルマを開発しようとしているのかの一端が見えてきます。

自動車は3万点を超える部品を組み立てて、走るのです

 自動車メーカーといえばトヨタ自動車や日産がクルマを開発していると思われがちですが、自動車は3万点を超える部品の結晶体です。精密で高品質な部品を生産する自動車部品メーカーがいるから、クルマは世の中を走ることができるのです。

 ニチラジにはもう一つ思い出があります。太田寿吉さんという社長がいました。日産専務の後に社長に就任した後も新聞記者と親しくしていただきました。夜回りという個人情報が厳しく管理される今では新聞業界の化石ともいえる取材で、太田さんの自宅をお訪ねると、まずひとつの儀式が迎えてくれます。太田さんが心血を注いで仕上げた鉄道のジオラマを一緒に鑑賞する時間です。電車が走る風景を見ながら、日本の自動車産業の過去と今の風景を語ってくれます。とても感謝しています。

 マレリに戻ります。日本ラヂヱーター(1988年に社名をカルソニックに変更)はトヨタ系列の自動車部品最大手デンソーなどに対抗するため、2000年に関東精器(1991年にカンセイの社名変更)と合併し、カルソニックカンセイとなります。日産を率いるカルロス・ゴーン社長は系列に拘らないコストカッターでしたから、日産系部品メーカーは一種の恐慌状態に追い込まれ、カルソニックカンセイも経営に大打撃を受けます。

 2017年に世界的なファンドのKKRの傘下に入り、日産系列を離れ、2年後にフィアット・クライスラー・オートモービルズの部品事業部門だったマイエッティー・マレリと経営統合しました。電子機器や空調機器、エンジン部品など自動車の主要部品を生産しており、20年12月期連結売上高は1兆2660億円程度だそうです。デンソーが売上高5兆円近くですから、4分の1以下と企業体力、開発力で大きな差が開いています。

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